◆DROPEYES◆
LEY × SHINN
――――ぱたん・・・
古びた木製レトロなドア。
開けたとたん、少し湿気ったような空気がレイの首筋を滑った。
また、窓を開けたまま・・・。
ため息を漏らして後ろ手に鍵を掛ける。
夏休みに入って学寮の中は数えるほどの学生しかおらず静かだ。
いつもは少し離れた校舎からの様々な音に覆われる部屋が波の音で埋まっていた。
海辺の切り立った崖の上に立つ寮。
自由と自然を売り物にしつつ、なかなかどうして自然の牢獄のようによく出来てる。
まあ、別にレイにとってはどうでもいいことなのだけど――――。
よく、耳にするのでなるほど、と思っただけだ。
だって、どんな場所にいたって自分はとっくに籠の鳥――――逃げる場所なんかない。
細いタイをスルっと指にひっかけて外すと、首元に風が絡んでより涼しくなった。
ドア横の棚にひっかけながら、横に同じものがないのをみる。
また新学期が始まったらまた朝からタイがないと、探し回るくせに、同じ場所に仕舞うという癖をつける気はどうもないらしい。
「シン」
名前を呼んで足を踏み入れる。
左右におかれたベッドの左側。
胎児みたいに丸くなって寝ている。
このクソ暑い昼間によくも寝れるものだ、と感心すらする。
いつもは壁側を向いている横顔が珍しく通路――――レイのほうを向いてて、物珍しくレイはスヤスヤと寝息を立てているシンの顔をマジマジと見下ろした。
ぬばたま色の髪、幼くみられがちな顔をあまり見せたくらしく、伸ばしたままの前髪がかかってうっとおしそうだった。
まあ、レイも人のことはいえないけれど。
しかし自分のは自分の意思ですらないので、どうでもいい。
寝乱れたベッドの端。
開いた指の先、玩具くさいピンク色の携帯。
「・・・・」
カチカチカチカチ。
暇があればそればかり弄っている。
ガキくさい顔をして意外と女がいるのかと思っていたが、そうでないとすぐにわかった。
自分では目立つつもりはないようだが、隠そうとするほど人は敏感になるようで。
『例のトンネルの、毒ガス事件で家族、死んだんだってさー』
『本人。喘息持ちで、そのときたまたま吸入器と酸素ボンベつないでて助かったて』
人のことに関心のないレイの耳にまで入ってくるくらいだ。
みんな構いたくて仕方ないんだろう。
「・・・・・」
白い指先でレイはそのきついピンク色のものをとりあげる。
かすかに鈴の音が響いた。
握り込んで持ったまま大きくひらいたバルコニーの窓辺に立つ。
潮風が意外と冷たく、落ちかけた夕日の中レイの髪を煽って靡かせた。
オレンジ色に染まった手の中、カチンと音を立てる携帯を開いた。
満面の笑みを浮かべて映る今よりもっと少し丸みを帯びたシンと、少女。
妹だろう。
――――まゆ・・・
何度か、夜中耳にした名前を思い出した。
絵にかいたような嘘くさい日常を切り取ったような写真の数々。
想い出の倉庫。
みたことない顔のシンばかりだ。
表情を変えないまま、レイは何度も切り替えてその写真を眺めていた。
どれをみてもピンとこない。
だって、レイはシンのこんな顔見たことないから――――。
「レイ!!」
大声に顔を上げる。
視界の中、乱れたベッドの上で目を大きく見開いているシンの顔。
吊り上げた瞳に相応しく、紅い煌きが正面からシンの面をやく夕日とあいまってより深い色に変えていた。
焦ったように駆け寄ってくるシン。
二番目までボタンを開け放した首元、健康的に焼けた肌が似合うはずなのに、妙に白く頼りなく見えた。
虚勢そのものな感じに――――。
「何してるんだよ!人の勝手に触るなよ!」
手を伸ばして食ってかかってくるシンに――――どうしたんだろう。
別にレイは何であろうと、どうでもいいんだけど。
手が勝手にそうしていた。
優雅に腕の先をバルコニーの手すりの向こうに振り上げる。
「レイ!!」
顔色を変えるシン。
それはもう、面白いぐらいに。
波だたない心臓が、不思議なことにドクドクと血潮を自分の中に脈立たせていた。
――――なんの、こうふん?
手を伸ばして、レイの指先の先を掴もうと必死に指先を伸ばしてくるシン。
あと、手のひら分だけ届かず足先が震えるほどつま先立ちしている。
バカみたいに必死に。
「落とそうか?」
「何で!?冗談やめろよ!!レイ!!」
ジワリと浮かんだ涙。
真紅の色に妙な艶を与えていた。
子供のくせに。
一つしか違わないが、シンは子供だ。
手すりに凭れた背中がシンの重みを受けてより軋んだ。
でも、子供の癖に甘い匂いがする。
だから・・・。
「シン、して」
「え・・」
何を言われてるのか分からないみたいに、吊り上がった瞳を一瞬シンは引っ込めた。
案外大きな目。
面白かった。
シンと初めて寝たのは、3ヶ月前。
学園祭のあった夜。
後夜祭に参加せず部屋に戻っていたシン。
電気もつけずにベッドの上で座っていた。
自分の仕事を終えて、打ち上げを辞退して部屋に戻ったとき、暗闇の中目が合って・・・。
なんだったのだろう?あのときもレイは自分の衝動の理由を考えようとはしなかった。
ただ、そうしたいと思ったことをしただけ。
目を逸らせばいいのに、暗闇の中に浮かぶ瞳は紅の強さがなく、ただ、モノトーンに寂しくだけ見えた。
言葉はなかった。
伸ばしたレイの指先が、シンの首元のタイを解いて引いた音に、シンが目を瞑ったから。
ただそれだけだった。
短い息のやりとり。
かすかに飲んだ悲鳴にレイはシンの幼さを初めて知った。
言葉はなかった。
星明かり以外の光の中でで指を伸ばしたことも、口にしたこともない。
あれから、行為は暗黙のうちに月明かりのない暗闇の中だけの秘め事になった。
そのことについて話したこともなかった。
大きくみ開いたままの目はいつまで経っても動こうとしなくて、レイはちょっと首を傾げた。
日が落ちかけて強くなった風がレイの伸びた髪を乱して目の前のシンとの間を遮った。
「いらないの?落とすよ?」
「レ・・・冗談は・・・」
蒼白になる顔。
――――大事なもなんだ。
シンの顔を見ながら握った左手を瞬間緩めた。
「ヤ・・・ッ!!」
チャリ・・・
鈴の音が吹く風に響いた。
かろうじで指先に絡めたストラップでブラブラと中空にぶら下がるそれ。
強張ったまま手を伸ばしてレイの目の前で泣きそうにしているシンの顔。
「・・・ヤメてよ。」
いつも強気で、どっちかというと粗忽に話して虚勢を張るシンらしくなく、おまえ誰?ってぐらいに怯えた顔をするシン。
なんだかゾクゾクしてきて。
何・・・だろう?
唇が笑みの形になるのをレイは自分でも不思議だと思った。
絶望的な顔をするシン。
もうそういう顔なんかとっくに忘れた自分。
シンは無くさないのかな?
『おまえが必要なんだよ?レイ』
『ああ、彼は残念なことをしたね』
昨日まで親しげに肩を並べていた人をそう評した人。
いつか、自分も同じように切り捨てられていく予感が胸を過ぎったのは・・・。
「してよ?シン」
「え?」
「上手に出来たら返した上げるよ。」
目の前に広がる紅いルビーアイにレイは普通のことのように囀るみたいに言った。
自分でも不思議なぐらい、だんだんあの人に物言いが似てるって思ったりする。
当然みたいに言う、言い方。
そして、あいかわらず、意味を取りかねたように瞳を揺らすシン。
あからさまに指先にひっかけたストラップを揺らして見せて、手すりにかけてた右手の指先で呆けたシンの唇をなぞった。
「口でして?」
――――いつもしてやるだろ?
どこか惚けた焦点。
開いたままの口腔に指先を潜らせて上顎の裏をなぞった。
面白いように赤くなった顔。
いつも、暗闇の中でしかみない表情だけど、こんな色をしてたのかと、明るいのも悪くないかもしれないなどと思う。
チャリ・・・。
「ほら・・・」
左右に揺れるそれはレイの人差し指の第一関節に絡まっただけ。
「・・・・・」
睨みあげてくる顔。
でも、俯いてシンはカチャリとレイのダークレッドと黒のチェック柄の制服に指を掛けた。
膝まづいて、ベルトを外し、チ・・・、と金属音を鳴らして下着に指先を掛ける。
――――――やるんだ。
促しておいてなんだが、どうするかは半々だと思ったのでレイはちょっと驚いたりする。
理不尽でバカみたいな強要なのに従おうとするシンに。
子供みたいな唇。
乾くそれを何度か無意識に舐めるさまが思ったよりいやらしくレイの目に移って目を眇める。
喉を何度か鳴らして、息をついている細い肩を上から見下ろす。
二三度それを繰り返してからシンはレイのそれに思い切ったように唇を寄せて・・・。
からかっている間にかすかに立ち上がっていたそれが熱い口腔に含まれると、ズクりと背筋を快楽が走った。
咥えるだけでも難儀なように動かないシンに、レイは、振り上げたままの携帯の鈴を鳴らす。
ビクリ、と驚いたみたいに上目づかいに見上げる石榴色の瞳。
微笑む自分の顔までが、どこかあの人と同じ色の表情をしていることにレイは気づく。
じゃあ、シンは自分か?
ねえ、どこにいくの?
手すりに肘を掛けて悠然と見下ろしていた右手を伸ばして止まったままのシンの後頭部を押さえた。
「ん・・・、んグ」
喉元まで入ったように眉を顰めるシン。
軽く腰を揺らすと、苦しげにシンの小さな舌先がレイのその粘膜を擦って逆効果に煽られた。
チャリ・・・チャリ――――――。
可愛い音。
卑猥さと汚さの関係ない無機質で無邪気な。
「シン・・・」
「あ、ん・・・、んん!!」
ペタンと座り込んで上向いている意外と白い顔。
奇妙に愛しいという気持ちを覚えて、瞬間レイはその喉に熱を吐き出していた。
チャリ・・・ン。
――――あ・・・。
目の前のシンに夢中で、瞬間吹いてきた潮風に煽られて指先から外れたそれ。振り返ったレイの視界の中でスローモーションのように綺麗な円弧を描いてオレンジ色の世界を落ちていった。
「んん!!ゴホ・・・ん、ん!!!」
飲みきれないそれを口端に光らせながら、シンもまた手すりの棒に指を掛けて、落ちていくそれを視界に追う。
小さなそれは、そのまま岸壁に一度当たって、打ち付けてきた白波の中に消えた。
「や、・・・、やだ、・・・やだやだ」
手を伸ばしているシン。
――――――もう見えないのに。
もう戻ってこないのに。
「レイ!!なんでだよ!ひどい!!」
「・・・・・・」
別に落とす気はなかったのだけど。
落ちただけ。
――――――嘘。
ほんとは、目の前で落としてやろうって思ってたり、した・・・?
判然としない自分の感情をレイは逡巡する。
いつも、意志はどっちつかず。
考えるまえに決められていたから。
『レイは、こうしたほうがいい』って。
だから分からない。
どうしたかったけ?
答えないレイにポロポロ泣きながら手すりに縋ってもう見えないそれを見下ろしてるシン。
可哀相なシン。
もう、ほんとに何にもないんだね?
「や、あ!・・・んだよ!やッ」
頑なに白い縦手摺を握っているシンを引き剥がし、担ぎ上げて乱れたシンの固いベッドに放った。
ギシギシ言うそこに乗りあがってレイは自分が笑ってることに気づいた。
シンが怖いものを見るみたいにマジマジと見上げている。
もっと見て?
シン。
シンはレイの心の奥を見ようとしている。
何にもないレイの中。
そうしたらレイも蓋をした何かが開くような気がする。
――――――いつか捨ててやろうって思ってたんだ。
たぶん。
SEXするくせに、シンは縋りつく手の熱さの分もレイの方をみないから。
レイの体しかみないから。
許せないって思ってもいいんだ?
シンが悪いんだから?
動悸で上下する胸の上、整えられた指先でレイはシンの半分肌蹴たままのカッターシャツの釦をプツリと外した。
「レイ・・・、レ」
乱暴にしたことなんかなかったから?
知らなかった?
シン?
クツ・・・と笑ったレイにシンはハッっとしたように暴れ出す。
ジタバタしたシンを押さえつけて、レイは手際よくその制服を剥いだ。
剥き出しの白い双丘の奥。
「や、・・・やだやだやだーーー!!」
口で濡らした指先でクっと広げてズズっと広げる。
嫌だっていうくせに瞬間強張っても、そこは面白いくらい融けて、カクンと落ちた体。
「ひぁう、うう」
何度か行き来して、もう分かってるそこ。
突き上げるように二本にした指先で抉ると、綺麗に背中を反らせてシンがイったことを知る。
ベッドを濡らした体液。
「気持ちイイ?シン?」
くったりとシーツに頬をつけて細かく震えてるシン。
自分しか知らない。
自分だけのシン。
罵倒して、睨んででも、自分の手でイったシン。
――――――もう、ドロドロになって、ほらシンの中でレイはどれくらい占めるのかな?
細い肩先を押してこっちを向かせる。
涙でグチャグチャの紅い目。
小さいときに一回だけ抱いた子ウサギに似てる。
油断すると後ろ足でピョンと逃げ出すあれ。
後ろ足ひっぱって、逃がさないから。
「レ・・・いなんか」
ポロポロ落ちる涙。
伸ばした指先をシンは容赦なく叩いた。
口元の笑みを深くするレイ。
強引にまた伸ばしてレイはシンの前髪を握って顔を晒させた。
こんなにまともにシンの全部をみてるのは自分だけ。
「ん、ん・・・んん!!」
噛み付くみたいにキスした。
逃げる舌先。
レイの味が残るそれを舐めて送った唾液ごと無理矢理飲ませる。
咳き込みながら、シンは、そうした。
ほら、レイがもう入った。
シンの中に。
もっともっと入れたい。
グチャグチャにして――――――。
左手で押さえ込んだそのまま、レイは自分のまた勃ち上がりかけたそれに手を掛けて軽く扱いた。
そのまま、割り込んだ膝を外に広げて、シンの解けてるそこに当てる。
押し当てられた熱にハっとしたように身を強張らせるシン。
「ンン・・フ、ン」
そのまま押し込んだ。
唇を合わせたまま、飲み込まれる嬌声。
腰を揺らして軽く円を描くと胴振いをして眉根を寄せる。
声が聞きたくて、レイは一度上唇を噛んでから唇をずらした。
レイの長い金髪がシンの上に広がってサワサワと肌を擦るのにもシンは震えるようだった。
打ち振るう首筋をしとめるみたいに噛む。
だってシンはレイの子ウサギだから。
「・・・から。」
「?」
「赦さ・・・ないから・・・、レイ」
どこまで流れるのか分からない涙をしとどに流してうわ言のように嘯くシン。
レイは微笑を深くして、そのままシンの中に放った。
赦さないっていいね。
切り捨てられるよりずっと――――――。
その空っぽになった手の平で憎しみの分までずっとレイの髪を握ってくれたらいいな?
真紅の瞳を舌先で舐めてあげるから。
FIN
04/12/21UP
パラレルレイシン。
黒レイでした。
あまりわたり歩いてないのでみてませんが、あんまり黒レイはやばいですかね。
ま、書いてては楽しかったです。